小学校受験の最高峰、慶應義塾幼稚舎
『慶應義塾幼稚舎』それは小学校受験を考え始めた家庭がまず頭に浮かぶ学校かもしれません。嵐の櫻井翔さんや元テニスプレーヤーの松岡修造さんを始めとする著名人を輩出し知名度がある一方で、都心から離れてしまえば『幼稚舎』という漢字から幼稚園だと勘違いする方もいます。
素敵な私立小学校は数あれど、特別な縁故があって「〇〇小学校以外はありえない!」というご家庭以外は必ず候補の一つに上がる小学校であるものの、少し調べれば一般家庭が合格するのはとても難しいことがわかり、次第に「第一志望は慶應義塾幼稚舎です!」と堂々胸を張って頑張ることが恥ずかしさすら感じてきます。そんなお受験家庭が志望校選びで苦悩する傍ら、小学校受験に全く興味がない風を装っている家庭でも、小学校受験の名物といえるペーパーや親の面接がないことから、毎年秋になると港区・渋谷区近隣では、ほぼ対策なしで幼稚舎を受験する家庭がタケノコのようにニョキニョキ出現しだす…そんな興味深い小学校でもあります。
熱望する家庭も多いことから炎上しやすいネタではありますが、とくに女の子の幼稚舎受験について少し考察してみました。縁故の濃度はあれど小学校受験全般にもいえる話かと思いますので是非ご覧ください。

そもそも幼稚舎とは?
『慶應義塾幼稚舎』は慶應大学付属の小中高大までの16年間の一貫教育を担う小学校で、旧一万円札の肖像でおなじみの福澤諭吉の教えを体現した小学校です。場所は渋谷区恵比寿にあり最寄り駅は日比谷線広尾駅や渋谷・品川・目黒などからバスも通っています。
小学校卒業後、ほとんどの女の子は三田にある慶應義塾中等部・慶應義塾女子高等学校へ、男の子は日吉にある慶應義塾普通部・慶應義塾高等学校へ進学し、大学は慶應大学に進学します。
つまり、慶應義塾幼稚舎は一度系列の学校に入ってしまえば受験をすることもなく6歳の時点で慶應大学が確約されることから高学歴を目指す家庭は一度は考える選択肢なのです。
私立小学校・私立中学校の中でも高校までの一貫学校の場合は国立・医学部・早慶の合格実績をアピールしているように、大学から慶應大学に入学するのはとても大変なのは周知の事実かと思います。
大学から慶應に入るのは難しいのであればその前に慶應に入ってしまえば楽ができる!と思ったら大間違いで、中学・高校の偏差値もトップクラスでこれまた大変。では小学校からなら…と思うご家庭があるのはわかります。
そしてそれを刺激するように、小学校受験対策の幼児教室では様々な慶應対策クラスが立ち並び、毎年『慶應義塾幼稚舎 〇〇名合格!』と合格実績を競い合っている(ように見える)光景が見られます。
小学校受験においては偏差値のように難易度を示す数値があるわけではありません。数値化できない中でもどの程度難しいか、それでもなぜ目指す家庭が多いのか、いろいろな方面で分析してみたいと思います。
女の子が入るにはどのくらい難しいのか?
「女の子が縁故もなく幼稚舎に入るのは難しい」これは幼児教室は表立っては言われないものの、小学校受験を考え始めて調べていくうちにすぐに察する暗黙の了解となっています。
では実際はどうなのか?
単純な倍率であれば学校のホームページで公開されています。
男子 | 女子 | 合 計 | |
---|---|---|---|
2022年度 (2021年11月受験) | 978名 | 700名 | 1,678名 |
2023年度 (2022年11月受験) | 961名 | 623名 | 1,584名 |
2024年度 (2023年11月受験) | 934名 | 598名 | 1,532名 |
女子の募集人数は48名のため、2022年度は14.6倍、2023年度は13.0倍、2024年度は12.5倍となります。なお、男子の募集人数は96名ですので、男子の倍率は2022年度は10.2倍、2023年度は10.0倍、2024年度は9.7倍です。少子化の影響か少しずつ志願者が減っているとはいえ倍率が4~5倍を超えると難関校と言われる私立小学校受験において、幼稚舎は超難関校であることは間違いありません。
ただし、小学校受験の倍率は参考程度にしかありません。
なぜかというと、11/1~3は女子の都内試験日が重なっており、かつ、例年の試験日時から急に変更となることが多々あります。例年の日時だと受験できないことはわかっているが、万が一他校の日時が変更となって受験できるかもしれない!という淡い期待をもって出願したものの、やはり重複したので当日は受験できず泣く泣く棄権したという「とりあえず出願」の家庭も多く存在するからです。
「とりあえず出願」が実質の倍率を下げている要素となりますが、逆に倍率を上げる要素としては「縁故枠」の存在です。縁故枠が実際にあるかどうか、それはその小学校ではないとわからないものですが、幼稚舎だけに関わらず多かれ少なかれ私立小学校受験においては暗黙知となっています。縁故枠といっても色々な種類があり代々幼稚舎出身の名家、誰もが知る実業家・有名人、兄姉が幼稚舎に通学中など縁故の強さにも濃淡があります。これはお子さんの生まれ月に縁故のお子様がいるかどうかの運で左右されますので、同じ学年であっても月齢別でみると実質倍率が異なるなど、実際の倍率を計ることはかなり困難なことです。
男女がほぼ1:1で出生する中、女子の募集人数は男子の半数ですので、女の子が全くの縁故なしで合格できる割合はさらに低くなります。仮に男女共になにかしら縁故のあるお子さまが40名いた場合、男の子のフリー枠は半分以上の約50名あるのに対し女の子は10人以下という狭き門となります。
ここが「女の子が縁故もなく幼稚舎に入るのは難しい」と言われる所以であり、「フリーの男の子が幼稚舎に合格しました!」という体験談や物語はあっても、女の子の体験談は中々存在しないのです。(天現寺ウォーズやドラマ「名前をなくした女神」など)

倍率では見えない難しさ
女の子が慶應義塾幼稚舎を目指すことが難しい理由は倍率だけではありません。
受験対策が他校と真逆といってよいほど試験内容が異なるからです。
具体的にいうと、慶應義塾幼稚舎にはお受験の名物といわれるペーパー試験と親子面接がありません。体操と絵画・工作、行動観察により合否が決まります。体操は片足バランスやサーキッドなど、体の軸の強さや俊敏さを求められますし、行動観察や絵画・工作では単純な指示行動ではなくゲーム性のある作業や創造性が求められます。
一方で、伝統女子校ではペーパー、親子面接はもちろんのこと、同じジャンルの行動観察であっても、創造性ではなく『先生の言っていることを正しく理解しているか』という正確性や手先の器用さを問う指示行動が中心であり、学校側の求めるポイントが違います。体操にいたっては一部の学校を除いてあまり重視されておらず、試験科目に体操がない学校すらあり、幼稚舎と伝統女子校双方を志望校にした場合、全く別ジャンルの対策が必要になるのです。
更には、縁故が比較的強くなくフリー家庭でも合格できる(と巷で言われている)学校はペーパーは難関傾向にあります。また、幼稚舎以外の有名校ですと慶應義塾横浜初等部や早稲田実業学校初等科ではペーパー試験が一次試験にあり足切り要素を含んでいることもあり、縁故のない一般家庭が小学校受験を目指すにはペーパー対策に重きを置かざるをえません。
つまりは、幼稚舎を念頭に入れなければペーパー対策に重点を置けるのに対して、他校を目指しながら幼稚舎も目指すとなると、ペーパーに加えて体操、絵画・工作など小学校受験の全方位に向けて対策が必要となり、簡単に見積もっても2倍以上の時間と体力が必要です。これは集中力が持続しない幼児に限られた時間で受験対策をしなければならない中、かなり不利な戦いとなります。
「毎朝の片足バランスの練習時間をペーパー対策にしていれば…」と後で後悔しても遅いのです。

必ず読むべき入門書
倍率の高いことや対策が広範囲にわたってしまうこと…これまでの記事を読んで「あぁ、やっぱり我が家には無理だ」と思うようでしたら、やめた方が無難…という結論になります。
でもその前に、まずは幼稚舎出願の課題図書となっている『福翁自伝』はぜひ読んでいただきたいと思います。福澤諭吉が晩年に自身の生涯を語った本で、地方出身でかつシングルマザーのもとに生まれた一人の青年が激動の幕末をどのように生きてきたかがわかります。これは小学校受験するしないに関わらずこれからの時代を生き抜くヒントになる本でした。小学校受験を目指すご家庭であれば、年中・年少の間にさらっとでも一読することをお勧めします。そちらの方が幼少期から慶應義塾が目指すものを念頭に置きながら教育ができますし、何よりも年長になってからでは時間が圧倒的に足りなくなるからです。出願直前になって読むようでは遅すぎます。
福翁自伝はいろいろなバージョンがありますが齋藤孝先生の現代語訳版が一番読みやすいと思いますし、合格を目指すご家庭であっても現代語訳版で充分です。
福澤諭吉といえば『学問のすすめ』ですが(こちらも名著!)、私自身、学問のすすめから想像する聖人君主の「福澤先生」から、『福翁自伝』を読んでからは「ちょっと大胆な諭吉くん」へとイメージが変わり、親近感すら湧いてきました。


もしこの2冊を読んで心の底から共感するのであれば、幼稚舎を目指してもよいご家庭なんだと思います。
ちなみに…文字を読んでいる時間はないという方には、こちらもおすすめです。福翁自伝の内容がビジュアルでわかりやすく記載されています。

それでも幼稚舎を目指すという親の覚悟 ーフリー枠は0ではないー
実際に、幼稚舎出身ではなく、ましてや大学も慶應ではないのに女の子で幼稚舎に合格した!というお子様はいらっしゃいます。フリー枠はゼロではないのです。
志願者と募集人数から月別で単純計算すると毎月の誕生月約50名の中、1~4名の合格者のうちフリーが合格できるのは何名かはわからないけれども、その可能性にかけたい!というのであれば、出願する資格には制限はありませんし、挑戦すればよいのだと思います。
また、幼稚舎の入学試験に関しては不安を煽るような週刊誌の記事が数年に一度は出てきます。ほとんどは幼稚舎受験に向けて盲目的になってしまった保護者をターゲットにした詐欺ですが、あたかも学校側が関与しているようなタイトルをつけて興味を引くようにできています。こういった記事や巷に流れる都市伝説レベルの噂に心を乱さないことも大切です。最近でいうと、2024年秋の入試では考査直前に以下のような記事がでたこともあり、直前で幼稚舎を諦めて他校を受験したご家庭もいたのではないでしょうか。個人的には数百万、数千万円くらいで幼稚舎に合格できるのであれば出しちゃう気持ちもわからなくはないですが、本当に入るためには億単位の寄付が必要との噂もあり、一般人が裏ルートで合格するのは不可能です。ここはきっぱり諦めましょう。
《独占スクープ》慶應幼稚舎に激震!現役児童の父が告白「現役教員らが絡んだ金とコネの入学ルート」、“お受験のフィクサー”に2000万円
《早実初等部64名、慶應幼稚舎65名の合格実績》お受験有名塾が志望校教員への“賄賂”を斡旋していた! 770万円“心づけ”見積書入手
そもそも…どの小学校を目指すのであれ、倍率が高いから受けない、倍率が低いから受ける、というものではなく、小学校受験は学校の理念に賛同し、ぜひ我が子をここの環境で育てたい!と「親が」思うから受ける、というものなのだと思っています。何年にもわたって準備をし熱望しているご家庭ばかりが受験する倍率4倍の学校(11/1の都内女子校など)と、知名度があるが故に対策もほぼしていない家庭も多く出願する倍率50倍の学校(国立小学校など、私立小学校が第一志望の家庭も出願するので棄権も多い)とでは同じ比較はできませんし、どちらも難関であることには変わらないのです。
おまけ ー縁故枠とはいうけれどー
「幼稚舎はコネがないと入れないよ~」と人は簡単にいいますが、実際に縁故があるご家庭をご存じでしょうか。
時折、幼児教室では絵画の発表の内容からして「この子はきっと縁故があるんだろうな」というお子さまを見かけました。全員とは言いませんが、その子たちは新年長の開始時点ですぐにでも合格できるのではないか、、、というほど体操の出来は完璧で絵画の発表は堂々としていましたし、日常からたくさんの豊かな経験をされていました。そもそも小学校受験の前にお受験園に入るための幼稚園受験も経験していますし、ジャックやスイングに個人塾をいくつか掛け持ちして万全の態勢を整えて挑んでいます。そういった子でも直前期はうまくできない自分や期待に応えられないストレスからか、授業が始まる前に体調を壊してしまう子や泣き出してしまう子もいました。
それだけ縁故がある家庭は長年、親子二人三脚で幼稚舎を念頭に置きながら『本気で』日々努力し、それでも不合格かもしれないというプレッシャーと戦っているのです。その子たちを前に「あなたはパパが幼稚舎生だから合格できたのよ、よかったね」などとは言えないと思います。
縁故があることを羨ましがるのではなく、他人は他人、自分は自分と割り切り、現在、自分が持っている資源の中で最大限頑張るしかないのです。これは小学校受験に限ったことではないと思います。(就活においてもコネがあればと何度思ったことか…)
最後に、慶應義塾幼稚舎は「周りの子(家庭)がどうであろうと自身はこれが正しいと考え行動する」という考えが強く表れている学校だと思っています。つまり、周囲が「縁故がなければ合格は難しい」と言われようがなんだろうが、しっかりと『自身で』情報を集め、学校の理念に共感し、試験に内容を熟知し、校風と試験内容が子供に適しているかどうかを『親自身が』見極めること、一度受験を決めたら合格できない不安に襲われながらも最後まで走りぬける覚悟が必要になるのです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
後編では幼稚舎受験をするために確認すべきことをまとめみましたので、そちらもご覧下さい。
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